左手の音楽祭の実り(舘野泉)2014/07/09 13:25

2012年から約2年を掛けて行なってきた<舘野 泉フェスティバル― 左手の音楽祭>は昨年11月10日の東京オペラシテイーのコンサートをもって無事終了した。
左手作品のみによる音楽祭など前代未聞のことで無謀とさえいわれもしたが、全16回が毎回異なるプログラムで構成され、手応え充分な充実した音楽祭となった。
左手のピアノ・ソロ作品のみならず三手連弾曲、さまざまな編成による室内楽曲、そして幾多のピアノ協奏曲など、限りない可能性を含んだ立派な作品がこの音楽祭の間に誕生し、豊穣な稔りを日本の音楽史の上に刻みこむことが出来た。
日本を代表する作曲家達に加え、アルゼンチン、アイスランド、アメリカ、フィンランド、エストニアの作曲家達からも多くの立派な作品が寄せられた。
これまで「左手の文庫」募金への寄付で、新作の誕生を応援してくださった方々に感謝。
改めて皆様に深くお礼を申し上げたい。


「左手の音楽祭」が終わって半年がたっても、多くの作曲家からピアノ協奏曲、ピアノソナタ、室内楽作品などの新作が寄せられており、今後はそれらを演奏する機会も探っていきたいと考えている。
今年の「せんくら」でもいくつかの作品をご披露できるのは嬉しいこと。


病に倒れてからもう12年の歳月が過ぎる。
元気になって毎日ピアノに向かい、音を紡ぎあげてゆくことが出来るのを、ただただ有り難く思っている。
音楽が与えてくれるものは、常に生き生きとし、日々豊かに変化変貌してゆく・・・その在りようを手で味わい、表してゆきたい。
「左手の音楽祭」で出会った実りを慈しみ、これからの活動がなにをもたらしてくれるのか、踏み出さないことには何も分かりませんが、喜寿を迎えたその一歩として。

ピアニスト(舘野泉)2014/07/10 09:13

私は、ピアニストというのは手職人だと思っている。
若い時からずっとそうだった。
音楽を手で触るという感覚は面白い。
手で音を撫で、愛しみ、大事にしていくのだ。
いや、愛しんでというのは一面的な表現である。
ごりごりと握り、投げつけぶつけ放り投げもする。
作曲家の生涯だとか作品の構成とか歴史といったものに興味を持ったり考えたりしたことはない。
あるのは作品だけ、その音だけである。
音楽の意味、なにを表現しているのか、視覚的なイメージがあるのかと訊かれることもよくあるが、それも言葉にすることは難しい。


ある数学者の文章に面白いことが書いてあった。
「研究の成果を本にしたのだけど、数学の証明が800頁にもなって、数学者でも読んではくれない。
では、それが複雑で技巧的なことかというとそうではなくて、単純で自然なことをやっている。
伝達しようと思うと、こうなってしまうのが不思議です」というのだ。                   

きわめて単純な事例だけど、パソコンなどの使用説明書などを読むと複雑極まりなくて到底理解しがたいが、実際にやってみると簡単で分かりやすいのに似ているだろうか。
音の中にも沢山の情報が詰め込まれていて、辛抱強く探っていくと、それがある日、ああ、そうなんだといって姿を現してくる。                           


先日、エジプトのツタンカーメン大王のミイラを長年検証してきた結果が発表され、王が虚弱体質で、マラリアによって若年で死亡したことや、一緒に埋葬されていた者たちとの血族関係なども明白になったことが述べられていた。
同じころに、数億年前に恐竜が絶滅したのは小惑星の地球への激突が原因だということも報じられていた。
私は中学生の頃一時、考古学者になることを夢見て考古学研究会なるものに所属していたこともあるし「歴史研究」という月刊誌を購読していたので、こうした情報が目に入りやすいのかもしれないが、云いたいのは、音楽は音や音構成の中にすべての情報が詰め込まれているので、音を手で探っていれば、いつかはその全容が見えてくるものということだ。
無になることによって、本当のことが見えてくるのだとも思う。

仙台のみなさま!(安藤赴美子)2014/07/11 13:44

仙台のみなさま!またせんくらに出演できることを本当に楽しみにしております!

一つ一つのステージが観客の方々と近く、共に楽しむ時間だったことを鮮明に覚えております。

 

毎回、東北を訪れると北国の暮らしぶりや人の温もりに心が満たされ、懐かしくなります。北海道や東北へ演奏のために行くことはそれ程多くはないのですが、先月はヴェルディ作曲「レクイエム」を歌いに故郷札幌におりました。

 

前日まで記録的な長雨だった札幌ですが、到着日から素晴らしいお天気が続きご覧のとおりキタラホールのある中島公園も自然光に木の葉や水面が輝いていました。

 

 

死者のためのミサ曲「レクイエム」は名作ばかりですが、ヴェルディほど壮大に表現した人はいないのではないかと思います。特にソプラノにとって終曲「Libera me」は別格で、生きること、死ぬことを極上の音楽で表現できる感動がある曲です。今年の2月にオペラ「ドン・カルロ」の王妃エリザベッタをオペラで歌いましたが、アリア「世の虚しさ知る神よ」や来世と繋がるような最終シーンの二重唱が最高に美しく、演奏する側としても歌い切った後ちょっと現実に帰って来られない感覚にさえなるようなヴェルディ後期の音楽。

 

リサイタルで歌う「オテロ」の柳の歌も後期の充実した音楽です。このアリアは曲というよりオペラの1シーンで、潔白なデズデモナが錯乱したオテロから疑念をかけられ後に殺されますが、死の予兆を含む悲しく不安な心境を感じ取って頂けたらと思います。

 

 

 

歌手にとって長時間歌うことは要エネルギー!いつもお稽古の途中や幕間に何を食べるべきか迷いますが、先日はオケ合わせの合間に品の良い握りで大好きな鮨店のテイクアウトを休憩時間に食べて元気を補給。食事の充実感、なにより大事ですね。

 

 

自然を眺めて食べるのは大曲の緊張やプレッシャーなんて吹き飛ぶ思い(笑)

 

今から仙台でのエネルギー源を考えてお稽古に励みます。ワクワク。




オペラ(安藤赴美子)2014/07/12 11:30

2012年秋のせんくら出演後、その間オペラやコンサートに忙しくさせていただいておりました。

海外の方とのお仕事も多く、その中でもかなり個性的で優れたマエストロたちと共同作業が続き…あのような個性に出演者として、タイトルロールとしてマッチできたこと自体アンビリーバブルな状況が続きましたが成長させて頂きました。

 

オペラ演出は伝統的な舞台のみならず、奇抜なアイデアも投入可能ではありますが、セッティングされた稽古初日に舞台を見て笑いが止まらなかったことは初めて。恐らく今後もないのではないかと思いますが、この舞台のように意外にエスカレーターを使用したオペラ演出は多くあります。でもこれだけ良くできたショッピングモールは珍しく、関係者のみなさん唖然。もちろんお客様も。

 

 

                            Opera <Nabucco>

 

一方、日本の伝統的な様式と繊細さをクローズアップしたオペラ「蝶々夫人」。名古屋での舞台は照明、衣装も美しく映えました。所作は歌舞伎俳優の方が指導して下さいまして、女形のたおやかな身のこなしをご教授頂きました。

 

 

                       Opera <Madama Butterfly>

 

蝶々夫人というオペラは日本のお話でありながら、音楽や表現はイタリアというアンバランスさのある難しい作品ではありますが、昨年の新演出では日本人が見て日本のストーリーだとわかる舞台を目指しました。指揮者は血気溢れる若手イタリア人。どちらにも引っ張られるので良い塩梅を見つけるのは大変でした。作曲者プッチーニが思い描いたものは海外の方からみた東洋のファンタジー、もっとオリエンタルでエキゾチックな夢の国だったのか…ご本人に訊いてみないとわかりそうにありませんが(笑)日本人には儚く無垢な蝶々さんが親しむ入口かもと思います。

 

昨日ヴェルディについて書きましたが、昨年秋はヴェルディ音楽の真髄といえばこのマエストロ!というリッカルド・ムーティ氏のコンサートに出演させて頂き、世界最高嶂の音楽をご指導賜りステージでは別次元のハーモニーを肌でビリビリと感じました。

知性と情緒溢れるイタリア音楽を知ると胸を抉られるほど深く感動します。

オペラガラコンサート(オペラ歌手4名出演)ではそんな世界をたっぷり1時間、ぜひ登場人物の気持ちになってドラマティックに浸って頂きたいです。




食の話に戻ってしまいますが…(安藤赴美子)2014/07/13 13:53


食の話に戻ってしまいますが…歌と食はなかなか切り離せないもので、ごめんなさい!

お酒は大好き、でも本番が近いと控えるようにしている内にあまり飲まなくなったので人生1/3くらい損をしているのかもしれません…味わうのは好きなので美味しいお料理との相性、雰囲気によって頂いたりたまに楽しんでいます。


夏はこのランブルスコなどの発泡ワインが飲みたくなり、イタリアではついついスーパーで大量に販売しているものを気軽に買ってしまい 、パルマで住み込み個人稽古をしている時に滞在していた場所の近くには、あまり手に入らないランブルスコの「オテロ」(赤)と「デズデモナ」(白)が出没する惣菜店がありましたので、ランブルスコなら価格も安くつい買って飲んでしまうことの多かった思い出のお酒です。このお酒炭酸で飲み口が良く、結構糖度があり歴史上の某有名オペラ歌手の大変な肥満は毎日飲んだせいとか…

東北は米どころ酒処ですね!移動をしていると立派な酒蔵もよく見かけます。毎日晩酌していらっしゃるのでしょうか。

今回はせんくら全ステージ終了後に東北の地酒と牛タンを頂けたら!と思います。食事のお楽しみがあると今からとてもハッピーです!

今年のせんくらも仙台の皆さんと有意義でクリエイティブな時間がもてますよう願うばかりです。

フィナーレの第九演奏会では平和へのメッセージが仙台から発信できますように!!心を込めて歌わせて頂きたいです。